開成中学校の2023年の算数入試問題を実際に解いてみました。どの問題も非常に面白く、思考力が試されるものでした。教材としても非常に有益な問題と思います。ここでは全体的な総評を挙げていきます。
開成中学校2023年入試 算数の形式
開成中学校2023年入試の算数の試験の形式は以下のとおり。
- 60分の試験時間で大問5つの文章問題
- 解答用紙を見る限り、計算式なども解答に求める形式
実は解答用紙がどんなものかを確認せずに、とりあえず問題を最初から解き始めたのですが、解いてみた感想は、
- どこぞの大学入試と同じくらいのレベルの問題がある
- とはいえ小学生の算数として解答することはできるもので、基礎的なところは娘が塾で習っている内容を応用したもの
- 具体的な図を書いて視覚的に理解していくことが大切な問題が多い
- しっかりと説明や式を書いていると60分は親でも時間が足りない
- この解答用紙のスペースでどの程度まで説明や計算式を書くことを求められているんだろう?
- 計算そのものというより、どう式を立てるかを考えるところでややこしくてケアレスミスしてそう(僕はケアレスミスが2つありました・・・)
- 中学以上のレベルで方程式を立てて解くこともできるけど、そうしないほうがすっきり解ける問題だなぁ
- どの問題も面白くてためになるなぁ
という感じでした。
昔の自分が中学受験をした時のことは記憶にないですが、今の中学入試ってこんなに難しいんだなぁ(開成中学が僕の母校より偏差値がかなり上なこともあると思いますが・・・)。
開成中学2023年算数 パパの初見解答の成績
ということで、僕が初見で60分使って解いた出来ですが・・・
1 | (1)⚪︎ | (2)⚪︎ | (3)⚪︎ | ||||
2 | △ | ||||||
3 | (1)⚪︎ | (2)× | |||||
4 | (1)⚪︎ | (2)⚪︎ | (3)× | (4)× | |||
5 | ア⚪︎ | イ⚪︎ | ウ⚪︎ | エ⚪︎ | オ⚪︎ | カ⚪︎ | キ×(時間切れ) |
うーん、中途半端な成績になってしまいました。
3(2)、4(3)(4)はケアレスミス、比較的丁寧に説明を書いたりして時間切れになってしまって5キが時間内に回答できず、2は自分の解き方の戦略ミスで途中で後回しにして再チャレンジできず、でした。
5が圧倒的に簡単だったので、全体を見て5から先にやる、とできていたらよかったかもしれないですね。5は時間がなかったので、自分でも説明を適当に書きながら解いてしまいました。4も簡単だった割に、時間が気になって焦ってケアレスミスしてしまったのはダサかったです。
3(2)は立体の切り取られた部分の体積を求めた達成感でできたと勘違いして、本当に求めないといけない残りの部分の体積まで求めなかったっていうバカな間違いでした。
受験って、やっぱり慣れが必要ですね。
開成中学校の算数の問題は面白い・勉強になる
実際に問題を解いていて、開成中学の算数の問題はどれも面白いな、と感じました。どれも応用力が問われる問題ですが、根底にあるのは、
- 算数の問題を適切に視覚化できるか
- 問題の背景にある算数の基本に気づけるか
- その算数の基本を忠実に実行できるか
をどの問題も問うていて、とても勉強になりました。単純な計算力ではなく、問題解決能力を試す問題と感じます。どれも教材としてとても良質と言えます。
第1問:ウサギとカメの話・圧倒的な居眠り時間
1番は、ウサギとカメの話を題材にした問題。カメが4m/分で歩いているところを、ウサギが60m/分で一気に突き放し、なぜかゴール手前で1時間居眠りしている間にカメがゴール直前まで辿り着いていて、ウサギが慌てて80m/分で追いかけるも、カメに5秒遅れてゴールする、という設定。
問題そのものは、スタートとゴール間の距離と経過時間の2軸のグラフで問題を視覚化すると、そんなに問題なく回答できる類の問題。ややこしいところがあるとすれば、時間の単位換算でしょうか。あと、答えが分数になると、一気に「これであってるのか?」と不安になります。
題材がみんながよく知っている話が元ネタになっているのも面白いですが、ウサギが仮に1時間居眠りしたとして、カメが勝てる距離はたったの255mだった、という答えが、この寓話の現実離れしたところを教えてくれる面白ポイントだったと思います。255mということは、ウサギが当初の速度で走っていれば、5分弱で到着する距離です。5分弱で決着するはずのレースで1時間も居眠りするんだから、ウサギのキモも座ったものです。
ちなみに、うさぎは捕食者から逃げる場合、瞬間的には最高時速80km(高速道路の大型車の法定速度!)くらいで走る個体もいるそうです。分速にすると1333m。この問題では普段のピョンコピョンコしてるゆっくりな速度でうさぎは走っていたんでしょうね。
ちなみにカメの歩みは時速0.3km程度(分速5m程度)とのことなので、この問題の設定は妥当なようです。つまり、ウサギが本気を出していれば、この255mは本来10秒くらいでウサギがゴールして決着がつくのを、ウサギは舐めプしてゆっくり歩いた上に、5分弱で決着するはずのところを1時間居眠りした、という、ウサギとカメの話のあり得なさを教えてくれているわけです。
第2問:算数の基本を思い出させてくれる良問
大学受験が最後の数学の勉強だった僕のような大人には、こういう点が動いている問題って、どうしても点の位置をxで表して解こうとする癖がついているように思います。最初何も考えずにそうやって解いていたら、面倒なことになって時間配分に焦る結果になってしまいました。
でも、小学生に限らず、中学生・高校生も、まずは図形問題は「基本図形」に持ち込むのが基本だよなぁ、と痛感させられる問題でした。きちんと三角形に分割しましょう!ですね・・・。
また、場合分けを考える際に、各場合の分かれ目(場合分けの境界条件)をしっかり確認するということも非常に基本的なことだなと思い出させられました。この問題で言えば、動いている点Qが六角形の各頂点B、C、D、Eに到達した前後で六角形の切れ方が変わるので、各頂点にQがいるときに六角形がどのような面積比で切られているかを確認するだけで、この問題は一気に進みます。
さらに、基本図形である三角形の面積が、辺の長さの伸縮によってどのように変化するかを理解しているかも問われています。
算数の基本の重要性を痛感させられる良問でした。
第3問:「困難は分割せよ」
立体図形をきちんと把握するのはなかなか慣れないですよね。なので立体図形の把握が苦手でこの問題をスルーして次の問題に行く、という戦略を立てる人も多いかと思います(し、第4,5問の難易度を考えると、それが正解なのかなと思います)。ただ、やっぱりこの問題も、1問で何度も美味しい良問です。
この問題の根底にあるテーマは、「困難を分割する」ということ、そしてその分割の際の指針となるのは、①複数の手順は1つずつ行う、②面ではなく線、線ではなく点で考える、③集合におけるベン図の考え方の活用、④立体の基本図形に持ち込む、の4つです。
例えば、(1)では2つの断面で立方体を切っていますが、いきなり2つの断面で切った図形を描こうとすると、結構大変です。なので、まずは1つ目の断面で切った図形を描いて、それから2つ目の断面で切った図形を描く、というふうに手順を1つずつ追っていけば、それほど難しくなく描くことができるでしょう。
断面がうまく描けない場合は、いきなり面を描くのではなく、その面の境界である線を描くことに集中する、線を描くのも難しければ、その線の端である点を描く、としていけば描きやすいでしょう。
(2)では2つの断面で切った図形の体積を求める必要があります。この際も、いきなり切り取った図形全体を考えるのではなく、各断面で切り取った図形を個別に考えることが重要です。ただ、2つの断面で立方体を切る場合、各断面で立方体を切手できる三角柱に分けて考えた場合、重なりが出てくるので、ベン図の考え方で共通部分の体積を検討する必要が出てきます。
最後に、図形の体積を計算する場合は、立体の基本図形に分割することを考えなければなりません。三角柱・四角柱や三角錐・四角錐に分割して、体積を計算しましょう。
立体の基本図形の体積を考える際も、1つの辺の長さの伸縮で体積がどのように変化するかの理解が問われています。そういう意味で第2問とやるべきことは根底でとても近いと言えます。
第4問:周期算の基本は、「何周期目の何番目か?」に尽きる
周期性に気付き、そこから先のことを見通そう、という問題。数字ではなく図の周期性に気づき、周期算として解けるかがこの問題のキモです。
この問題は(1)(2)で、「18秒ごとに1周期」だけど、その1周期はさらに「6秒ごとの3パート」に分かれ、「6秒ごとの3パートもPQRを適宜入れ替えるだけ」ということを誘導して気づかせてくれています。その誘導に乗れば、大きな問題はないでしょう(ケアレスミスしておいてなんですが・・・)。
周期算ではとにかく「何周期目の何番目か」を把握することに尽きます。やはりこの算数の基本を問いかけている問題と言えますね。
第5問:場合分けは算数の最終奥義
場合の数に関する丁寧な誘導問題です。難易度としてはこの年の5問の中では最も簡単だったと思いますので、僕のように時間切れで最後解答できない、というような無様なことにならないように、試験慣れすることが大切ですね。
この問題は、場合分けを丁寧に誘導することで、全ての場合を網羅して回答を導く手順を示してくれています。ただ、どの世代でも、「場合分けが苦手」という人が多いと思います。しかし、これは由々しき問題です。
場合分けとは、先ほども挙げた「困難の分割」の方法の1つです。今回の問題では、「和が96になる2つの数の組み合わせ」を考えるにあたり、まずは「一の位が6になる組み合わせ」が何通りあるか場合わけし、その上で書く場合で「十の位が9になる組み合わせ」を考える、というふうに、一の位と十の位の問題を分割している分けです。
この場合分けを苦手にする理由は大きく2つあると思います。1つは、「ただ単純に個別に考えていくのがめんどくさい」。算数が苦手で嫌いな人は大体めんどくさがり屋です(実は、算数好きの人も大体めんどくさがり屋だと思います)。なんかね、めんどくさいから一気にしたがるんですよね。でも、実際には場合分けしてみると、とてもすんなり解けてしまうこと結構ある。まずはとりあえず場合分けしてみる、ということができるようになれば、こういうタイプはすぐに伸びるように思います。
2つ目の理由は、「全ての場合を過不足なく挙げる自信がない」というもの。見落としてしまうんですよね。こういう時に大切なのは、場合を挙げていく際に「必ず何らかの規則に従って場合を挙げていくこと」になります。意外とこれができていないんですよね。集合におけるベン図の重なりの部分を検討することも、結局この「過不足なく挙げる」ためのツールの1つにできます。
場合分けは算数・数学の困った時の最終奥義です。というか、人生における超重要スキルです。場合分けって、結局「抽象的な問題を分割することによって具体化する」ということなんですよね。で、場合分けをしてみて具体化することによって、何らかの規則性に気づいて、実は場合分けしなくても解ける方法に気づく、ということが多々あったりします。なので、「困ったら場合分け」はとても重宝します。
人生においては、さまざまな場合からの選択の連続ですが、その際に、「具体的な場合を検討する」「その際にできるだけ過不足なく場合を想定する」ことができれば、人生のより良い選択につながりますよね。僕は昔の無知だった頃に某大手銀行の営業に乗せられて契約した保険のこと、まさに「人生の場合分けをちゃんと検討していなかった愚かな決断」として心に刻んでいますよ。今はお陰様でいろんな角度から投資商品を検討するようになりましたよ!💢
パパが中学入試の過去問を解くことにした理由
最近、長女が中学受験を考えるようになったので、最近の中学入試がどんなものか気になり、調べてみることにしました。せっかくなので、難関として超有名な開成中学の2023年の入試問題を実際に解いてみることにしました。娘がやるなら自分もやってみよう、の精神で、いろんな中学受験を見てみようと思っています。
僕自身、もともと長く高校生を対象に数学を教えていた時期があるので、中学受験の算数の問題を解いてみて、大学受験の問題との重なりにとても驚いています。根底にある考え方は本当に同じです。そして久しぶりに算数(数学)にしっかり触れてみて、とても楽しめています。
最近は長女・次女の勉強を自宅で見ることが増えてきました。実際に数学を教えていたのは10年以上前ですし、僕が教えていたのは高校数学なので、時に戸惑うことはありますが、意外と楽しく(娘にとっては大変かな?)一緒に勉強しています。
ちなみに、開成中学の入試過去問は、四谷大塚さんが運営されている中学入試過去問データベースから参照させていただきました。今時、素晴らしいデータベースをこのように公開されているんですね。関東圏に住んでいたら、娘の受験にも四谷大塚さんにお世話になっていたかもしれませんね。
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